本書は、二〇世紀の京劇がたどった現代化の道のりを、男旦と女優に焦点をあてて考えようとするものである。手がかりとなるのは、彼らの舞台を見た観客や記者、劇評家が書き残した記録だ。京劇の現代化を物語る現象は、劇場の構造や舞台装置といった物理的な設備(ハード)面から、脚本や演出といった舞台上の内容(ソフト)面にいたるまで、多岐にわたる視点から論じることができるだろう。その中で、とくに取り上げたいのは、女役を演じる俳優の身体が、男旦から女優へ、すなわち男性から女性に交代したことについてである。この変化は、京劇の設備と内容の両面にわたる革新と同時に進行しており、それぞれと深く関わっている。 はじめに 序章 男旦はモダンガールをめざす 女に扮する男旦/男旦と女優のたたかい 男旦から女優へ/男旦はモダンガールをめざす 第一章 清末民初の女芝居  女優登場/清末上海にあらわれた坤劇 「見世物」としての女性/「男女合演」のもたらした発見 女優に求められる「自然」 第二章 港からきた女優 清末民初の北京の舞台/女優に向けられるまなざし 女優・劉喜奎と男旦・梅蘭芳/女優の身体と「現身説法」 第三章 劇評家・辻聴花と女芝居 日本人劇評家・辻聴花/辻聴花略歴 劇評家・辻聴花の誕生/一九一五年の菊選 劇評家・辻聴花と女芝居 「劉鮮大戦」の発生とジャーナリズムの関係 第四章 「鴛鴦蝴蝶派」と上海の遊戯場 新舞台の劇場空間/「鴛鴦蝴蝶派」とメディアのつながり 百貨店と楽園/劇評というパフォーマンス 共同体の変容 【表】筆戦関連記事一覧 第五章 機械仕掛けの舞台 三つの『長坂坡』/新舞台開場前の西洋式劇場と舞台装置 新舞台の舞台装置/新新舞台と日本人画家・坪田虎太郎 新新舞台の宣伝文句/新式舞台装置と観客の反応 『梨園公報』と機間佈景/『梨園公報』と孫玉声 機械仕掛けの舞台/機間佈景の快楽 第六章 日本人の描いた京劇 梅蘭芳の訪日公演/福地信世「支那の芝居スケッチ帖」 梅蘭芳と『天女散花』のスケッチ 『思凡』のスケッチと舞踊劇『思凡』 【表】梅蘭芳のスケッチ一覧 第七章 「孤島」期上海と戦時下の演劇 「孤島」期の上海演劇/周信芳と『明末遺恨』 『明末遺恨』の受容 もう一つの『明末遺恨』:『碧血花』/「孤島」内外の声 「改良」のスローガン/「孤島」期上海演劇の接触と境界 第八章 たたかう女性像の系譜 中国共産党による京劇改革/革命模範劇の誕生 革命模範劇における女性像 戦闘少女の系譜:花木蘭から紅色娘子軍へ 革命現代バレエ『紅色娘子軍』における「女性役割」 寡婦の系譜:花木蘭から穆桂英へ 「夫」の不在:「妻」と「寡婦」の間/文化大革命後の女性像 終章 男旦とモダンガール ふたたび、男旦はモダンガールをめざす/欧陽予倩の『潘金蓮』 『潘金蓮』上演の背景/『潘金蓮』の脚本の構造 『潘金蓮』の人物造型/脚本と上演の相違/潘金蓮の白い胸 『潘金蓮』とサロメ/女優の演じた潘金蓮 【表】『潘金蓮』関連脚本対照表 おわりに

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