
日本と韓国は戦後八十年も経とうとしているのに、今なお多くの「葛藤」を抱えている。最近は新しい韓国文化も入り若者中心にお互いに交流するようになったが、政権が代ったり歴史問題に発展すると、葛藤と対立の中から抜け出せなくなってしまうことがしばしばある。直接的には「韓国併合」(1910-1945)に原因があるとはいえ、この「葛藤」の底辺には、長い歴史が培った「生」の営みや生活意識に対する双方の理解の不足が横たわっているのではないだろうかと思う。 日本人の生活意識の多くは江戸時代の侍文化(及びそれを再編成した明治維新)に培われたといっても過言ではない。そしてその社会を支える経済システムは、封建制度による地方経済であり、同時に商人経済でもあった。言い換えれば、時々政治家が発する「美しき日本」とは江戸社会の近代版であるともいえる。 その視点で韓国を見ると、韓国人の生活意識の基底は(李氏)朝鮮時代にあるだろう。朝鮮時代は儒教に支えられた王権と両班文化であり、経済含め全てが中央集中型で、また徹底した身分階級制度の社会であった。この違いは両者の生活意識や思考方式に大きな影響を与えた。 その辺りの「生」の情景が、この『朝鮮風俗集』に描かれている。本書は、当時の朝鮮総督府の警察官吏であった今村輔(イマムラ トモ。略歴は巻末参照)が、明治末期から大正初期にかけて調査し研究したものをまとめたものである。 はじめに 第一編 朝鮮の社会構造と身分制度 朝鮮人の美風 朝鮮の社会階級 朝鮮の奴婢 朝鮮の下層部落 朝鮮の妓生と蝎蜅(カルボ) 李朝の官制 李朝の官吏法 朝鮮人に対する官命の効果 李朝の刑事警察 朝鮮人の犯罪 官吏に対する頌徳行為 朝鮮の宿屋 朝鮮の質屋及び金貸 朝鮮の頼母子講 朝鮮の洑(溜池) 朝鮮人の親族関係 第二編 朝鮮の風俗 朝鮮の冠礼婚礼 朝鮮の葬儀 朝鮮の祭式 朝鮮の年中行事 朝鮮の賭博 朝鮮人の出産 朝鮮人の服装 朝鮮の孝子烈女 朝鮮の寡婦 第三編 朝鮮の迷信と宗教 朝鮮人の迷信及び宗教 墓地に関する迷信及び弊害 朝鮮人の夢占いについて 朝鮮人の素人療病禁厭と迷信 朝鮮人の俗伝 虎に関する俗伝 朝鮮の迷信業者 付 鄭鑑録「鑑訣」(抄訳) むすび 高麗・朝鮮関連歴史年表
- ISBN:
- 9784885464416