この物語は、京山みすずという何の変哲もない女子大生の話かと思う方も多いだろう。が、それはとてつもない勘違いで、みすずの経験たるや、想像を絶するほどのおどろおどろしい半生(9歳に始まって近未来の2030年の40歳に至るまで)を綴った「運命・ファンタジー・ストーリー」となった。 しかしまだある。それはみすずの父の生まれて間もない頃から始まっていた。みすずの父・利男は、誰が父か母か知らされず、そのまま京山家に引き取られた。壮絶な人生の始まりだった。彼は苦学して医師となった。 そして、後にみすずの恋人となる瀬高幸太の生い立ちが奇想天外で、小さな飲食店で天真爛漫に育っていたが、忽然と現れた老婆の登場で物語は一転、ひっちゃかめっちゃかになっていく。 時代背景は1990年前後の「バブル経済」が中心であるが、様々なエピソードがみすずを、そして幸太を襲ってきて、やがて一つのことに集約されていく。それは読んでいただいてのお楽しみだが、いずれにしても幾多の日本人が体験した苦渋の数十年を、みすずたちがいかに逞しく生き抜いたか、あるいはこれから生き抜こうとしているのか、読者の皆様にじっくりと見届けていただきたい。 「酒は万能薬」とか「百薬の長」などと言われるが、「陽光の向こう側」に登場する幹也は弱い癖に酒に溺れてしまい、失敗を重ねていく。そのような「アルコール」が与える功罪についても書き記したので楽しんでいただきたい。 前作「安寧(あんねい)の予感(よかん)」(文芸社刊)が、山で遭難死する「バッド・エンド」であったのに対し、今作の「陽光の向こう側」は夢と目標に向き合って前進する「ハッピー・エンド」に落ち着かせようと、みすずの「生きようとする逞しさ」に表現力のすべてを尽くしたつもりである。「人生は旅」だとみすずが思った通り一筋縄ではいかなかった。その難関をいかに克服していくか、読者の皆様もみすずと一緒に悩み、考えていただきたい。 例の老婆が120歳の天寿を全うするその時に、みすずたちに岡山弁で言い残した言葉を私たちも十分噛みしめたいと思う。

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