
日本近代文学を有名作家だけでなく無名作家群からも見渡せば、メディアの勢力によって文学がつくられていった大きな流れが見えてくる。本書は、有名作家と無名作家・男性作家と女性作家・作家と読者との双方を見、雑誌を他の新聞雑誌との連関の中で捉える。島崎藤村の全集未収資料を駆使して藤村文学の新たな特質を捉え、藤村の所謂「私小説」の読まれ方を明らかにする。また、男女の無名作家の主張から「文壇」におけるジェンダー以外の偏りを可視化する。そして、藤村が発行した婦人雑誌『処女地』の女性達がどんな新聞雑誌に何を書いたかを、学校教育・女性労働運動・戦時下の言説・出版状況など、領域を横断して追跡することによって、文学生成の場を解き明かす。人々は〈文学〉に何を求めたのか。出版資本主義の台頭と成熟の時代を扱う本書の考察からは、これからの〈文学〉が浮かび上がるだろう。
- ISBN:
- 9784757609433