
一九四三年五月、一度の見合いで結婚式を挙げ、翌日には夫に従い日本の植民地下の旅順へ旅だった一人の女性がいた。短歌を愛し書道に親しむこの娘の相手は、フィリピンのバターン半島戦・コレヒドール戦に陸軍気象部隊として参戦し、除隊したばかりの予備役将校であり、爬虫類学者を志す男だった。彼は旅順高校の生物学の教師として赴任する。初めての“外地”、軍隊の臭いを残し蛇を研究する夫、新しい環境のなかで新妻はすがるような思いで京都の両親・妹弟へ手紙を出し続ける。敗戦直前の時代の植民地の生活の観察、夫や旅順の日本人たちとの交流などの克明な報告は、本土へ手紙がとどかなくなる一九四五年七月末まで続いた。本書はその手紙をまとめたものである。
- ISBN:
- 9784755400377