
いたるところに施された西鶴の仕掛けは、どのように埋め込まれているか。 西鶴を「わかる作品」として読み直すべく、その小説作法を解明し、どう読むべきか、どう読まれるべきかを問う。 そのための本書の挑戦は、一つには、創作方法としての「饒舌な沈黙」の発見、二つには、短編集の仕組みの解明、最後に、ジャンルの越境という点により行う。 短編なのに、一人の長い人生を追ったドキュメンタリーのように人物を描きだす西鶴のリアリティとはどこにあるのか。テキストのことばを読みながら、作品のいたるところにある仕掛けを掘りおこし、新しい読みの扉を次々に開いていく。 【ひたすら西鶴のことばに忠実にテキストを追っていくと、はじめは靄がかかったようなスクリーンが少しずつ鮮明になってくる。さまざまな思いをもつひとりの人間や、複雑な要因によって引き起こされたひとつの出来事が、ドラマチックに立ち現れる。西鶴は、読者をその瞬間に立ち会わせるために、さまざまな仕掛けを作品に施し、繰り返しテキストを読むように誘惑しているのではないだろうかー。】……「はじめに」より はじめに 研究史をふりかえる 本書の試み 第1部 作品形成法ー表象と仕掛け 第一章 『好色一代男』の方法 1●船に乗る「世之介」は何を意味するか 一 問題の所在ー人生の転換点で船に乗る世之介 二 女護の島への出帆 三 難破と遺産相続 四 世之介が船に乗るとき 五 世之介の金の使い方 六 船に乗ることの意味 2●「都のすがた人形」における「鶉の焼鳥」は何を意味するか 一 「三十五両の鶉」の焼鳥という仕掛け 二 西鶴が描く鳥料理 三 「鶉の焼鳥」が意味するもの 四 『伊勢物語』における鶉の表象 第二章 『好色五人女』の方法 1●「おなつ」をとりまく滑稽 一 はじめに 二 『好色五人女』の喜劇性と悲劇性 三 巻一「姿姫路清十郎物語」の時間 四 清十郎の過去─第一章「恋は闇夜を昼の国」 五 おなつの恋─第二章「くけ帯よりあらはるる文」 六 第三章「太鼓による獅子舞」と第四章「状箱は宿に置て来た男」の手法 七 第五章「命のうちの七百両のかね」の手法 八 なぜ悲劇性と喜劇性が共存するのか 2●「お七」の母の小語 一 はじめに 二 お七と吉三郎の恋の展開 三 お七の最期 四 お七母の小語の意味 第三章 冒頭部の仕掛け 1●『男色大鑑』「墨絵につらき剣菱の紋」を解く 一 はじめに 二 「たたみ船」は何を意味するか 三 「兼ての望」は何を意味するか 四 翻弄される読者 五 川を渡る大右衛門 六 不透明な表現のもつ意味 2●『日本永代蔵』「浪風静に神通丸」の小さなエピソード群 一 『日本永代蔵』の特徴 二 巻一における〈小さなエピソードを積み重ねる〉手法と従来の評価 三 「唐かね屋」について 四 北浜米市の描写 五 さし物職人の話への流れ 六 「筒落米」を拾う親子 七 そのほかの話の手法 八 御伽草子の方法と比較して 第2部 語り紡ぐ仕組み
- ISBN:
- 9784305707994